生き物の死にざま 著者 稲垣栄洋先生
感動した本の紹介
◆生き物の死にざま
著者 稲垣栄洋(いながきひでひろ)
生命、すなわち生きることの意味と使命を昆虫や色々な生物の死にざまを通じて解説している本です。
一例を挙げます。
鮭は生まれると川を下り、オホーツク海からベーリング海へ進み、そこからアラスカ湾を旅して、成熟した大人になってまた生まれた故郷の川に、最後の仕事をするために遡上してくる。この期間はだいたい4年程度。16000キロに及ぶ回遊をする。
生まれ故郷の川に遡上して卵を産む。これが最後の仕事となる。
鮭は新しい命を宿すと、自らは死んでいくという宿命にある。鮭たちは河口から川に侵入するともはや餌を獲ることはない。彼らはどんなに疲労がたまろうとも、どんなに空腹になろうとも、ひたすら上流を目指して川を上り続ける。
時間を惜しむかのように、残された時間を戦うかのように、彼らはひたすら上流を目指し続けるのである。
上流に辿り着くと、鮭たちはそこで愛すべきパートナーを選び卵を残す。
この瞬間、この時のために、彼らは長く苦しい旅を続けてきたのだ。
鮭のメスは川底を掘って卵を産む。そしてオスは精子をかける。オスに守られながらメスは尾びれで優しく卵に砂利をかけて産卵床を作るのである。
鮭は繁殖行動が終わると死ぬようにプログラムされている。最初の繁殖行動を行った後、鮭のオスは死へのカウントダウンが始まる。彼らは命の続く限り、メスを探し続け、自らの体力の限り繁殖行動を繰り返す。こうしてオスの鮭は命は尽きていく・・・。
卵を産み終えたメスの方は、しばらくの間、卵に覆いかぶさって卵を守っている。しかし彼女もまた力尽きて横たわる。
過酷な旅の末に体力が消耗したのではない。命を後世に引き継ぐという大仕事を終えたという安堵感に力が抜けてしまったのである。
メスの鮭もオス同様に繁殖行動を終えると死を迎えるようにプログラムされているのだ。
そして彼らは静かに死を受け入れる。故郷の川の匂いに包まれて、彼らはその生涯を終えるのである。
こうして鮭の命は循環しているのである。
なかなかドラマチックで感動的な死にざまでしょ。このような例がたくさん書かれています。しかも著者の詩的描写が素晴らしい。
命、すなわち「生命」の目的とは何か。それは子孫を遺し生命を連綿と続けることである。繁殖した時点、すなわち子孫を遺した後に息絶えるということが遺伝子にプログラムされている。
命の目的とは子孫を通じて永遠に進化発展するということではないかと。
我々も、たかだか80年程度の命をすべてだと思っているが、実は子孫を遺す事によって命は継続しているということ。命とはそういう意味において連続性があり、子孫を通じて永遠に続いているということ。
余談ですが、伊勢神宮は20年に一度式年遷宮をして新しく神殿を建て替える。だから、つねに新しいままで永遠に続くというこ。命とは継続していくことを表している。命の連続性を式年遷宮という形で遺したのだ。素晴らしい国、この日本に生まれてほんと良かった。